風邪・発熱
風邪・発熱
咳、鼻水、頭痛などの風邪症状や発熱は医療機関を受診するきっかけとして多いでしょう。ここではこれらの症状の中でも急に起こる一時的な症状についてご説明します。風邪症状で困っている人は、これらの症状を少しでも早く治したいと期待し、受診されます。
一般的に風邪と言われるものは鼻水やくしゃみなどの鼻症状、咳や痰などの気道症状、頭痛、発熱、倦怠感などの症状の集まりである「かぜ症候群」のことです。かぜ症候群の原因の多くはウイルスであり、インフルエンザ、コロナウイルス、アデノウイルスのほか非常に多くのウイルスが知られています。
現代医学的には、ウイルスの増殖を抑制する薬は、抗インフルエンザ薬やSARS-CoV-Ⅱ(新型コロナウイルス)治療薬などのごく少数です。これらの抗ウイルス薬は病気の原因(ここではウイルス)に対処する原因療法といえます。それに対して、医療機関で処方される、もしくは薬局で販売されている薬は風邪の症状を軽くする対処療法といえます。
咳や鼻水や頭痛・発熱などの症状を軽くするのが目的です。しかしながら、症状を軽くしたからといって、風邪という病気が早く治るかというと、それは別の話です。
病気を治すというのは、症状がない状態に戻ること。単に症状を軽くするだけではなく、できるだけ早く元の状態にもどりたいですね。風邪のウイルスが体に悪影響を及ぼす期間を短くするためには、漢方はとても有効です。
鼻・口・目を入り口として、ウイルスは体内に侵入します。これが目で炎症を起こすものであれば結膜炎、鼻であれば鼻炎、喉であれば咽頭炎、それよりも先の気道(空気の通り道)であれば気管支炎や肺炎となります。そして、空気の通り道ではなく、食べ物の通り道で悪さをするウイルスであれば胃腸炎となります。
ウイルスがそれぞれの好む場所で増殖し、炎症を起こすことで咳や鼻水、嘔吐下痢などの症状を起こします。ウイルスが侵入して間もない初期の段階では、人体はそれらのウイルスを外に追い出そうとして鼻水や痰の元(分泌物)を産生し、咳やくしゃみとしてこれらを追い出します。
胃腸炎を起こすウイルスの場合は嘔吐下痢としてウイルスを体外に追い払おうとします。
ウイルスを物理的に体外に追い払うための症状は、副交感神経の働きにより起こります。
不快な風邪症状であっても、人体をウイルスから防御するために行われている反応であることを踏まえると、ただ症状を抑えてしまうのはウイルスと戦う上では悪手だと考えます。
ウイルスが体の中で増殖をはじめてしまったら、人体は免疫機能を駆使してウイルスと戦います。この戦いを有利にするための仕組みが発熱です。どれくらいの体温が一番戦いやすいかというのは、その時に戦うウイルスと自身の体力によって異なります。この体温をセットポイントといい、この温度に達するまでは体温を上昇させます。肌の表面を収縮させて汗腺を閉じ、できるだけ体温を外に逃さないようにし、震えで代謝を上げて熱を作り出します。
セットポイントまで体温が上がるまでは、寒気を感じることになり、場合によっては関節痛も起こります。どうして短時間で発熱してまでウイルスと戦う必要があるのでしょうか?それは、短時間で物凄い勢いでウイルスが増殖し、時間が経つにつれその勢いが増すためです。増殖し始めたウイルスを効率的に退治するには、早い段階で最強の戦力で戦う体制を整えるのが良いのです。
これを踏まえると、寒気があると体温が上がり始めた段階で解熱薬を用いるのは戦いの足を引っ張ってしまう可能性があります。体温を速やかに上昇させる反応は、交感神経の働きで起こります。
自覚症状やその起こり方と時間経過、漢方医学的な診察を経て治療方針を決定します。体温を上げるべき時期なのか、下げても良い時期なのか、自覚症状への対応などから総合的に判断します。
漢方医学的な診察では、元の体力、平熱、診察時の脈の状態、汗・咽の渇きの有無などを参考にします。そして、交感神経の働きをサポートすることでウイルスとの戦いを有利に進め、自覚症状に対応できる生薬を含む漢方薬を選択します。
また、高齢な方や心疾患がある方には交感神経刺激が人体に悪影響を及ぼすこともありうることを考慮し、それらの方々に優しい治療薬を選択します。
風邪の初期(発熱、寒気、関節痛のとき)に用いる漢方薬は診断と使用量が適切であれば、服薬して15分程度で自覚症状の変化が現れます。
発熱初期の強い自覚症状を軽減すると同時に、その薬が合っているのかを判断する目的で院内での試し飲みをすることがあります。
それ以外の症状に対しても、比較的速やかな効果が期待できます。
体温を上げた方が良い時期があるとはいえ、高熱は人体に強い負担となるため、一人一人の体力、持病、その時の状態を踏まえて解熱鎮痛薬を使用します。
症状を抑える治療薬も漢方薬と併用することで、治療に要する期間を短縮しながら自覚症状を軽減できるものと考えます。インフルエンザのときの抗インフルエンザ薬や細菌感染状態での抗菌薬の使用は積極的に行います。
漢方医学では古くから、発熱の症状が始まってから数日後、数週間後などの様々な時期に多彩な症状が起こりうることが指摘されています。
その症状は、繰り返す発熱、午後になると熱が出る、便秘を伴う発熱、長引く咳、日常生活に支障が出るほどの倦怠感、睡眠障害、思考力の低下など多彩です。最近ではアフターコロナの症状が問題となっていますが、そのうちの多くは従来からの漢方の概念に含まれると考えます。
風邪や発熱だけではなく、発症前の体力や体質なども絡み合い複雑です。学校や家庭内で同じ病原体にかかっているはずなのに、症状やその程度が人それぞれ違うことはよくあります。風邪が重症化しやすい方や長引きやすい方は一度、当院にご相談いただければ幸いです。
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