起立性調節障害
起立性調節障害
朝起きるのがつらく、寝坊しがちで、起きた後もボーっとして、スッキリしない。食欲がなく朝食は食べないか、食べたくないが頑張って食べる。学校や仕事に行っても午前中は元気がなく、午後にやっと活気が出る。夜は元気で仕事も勉強もはかどり、早く床に就いても目が冴えて眠れない。
このような体質の人は意外と多く、程度が激しい場合は日常生活に支障を来すことも少なくありません。起立性調節障害は自律神経失調症の一つとされています。疲れやすさについては小児慢性疲労症候群、概日リズムの異常については睡眠相後退症候群とされることもあります。
症状が強い場合は頭がボーッとしてしまい、文字を読んでも頭に入らず、話を聞いても上の空になりがちです。髪の毛が抜けやすく、爪が割れるなどの症状を合併することもあります。
めまいは起立性低血圧に伴う脳血の血流が低下していることで起こります。この状態で何とか脳の血流を維持しようと、心臓は心拍の回数を増やして対処します。これが動悸として感じられます。同時に皮膚の血液を脳にまわすべく、皮膚の血管を収縮させるため顔面蒼白となります。
漢方医学的には、起立性調節障害のときは体に水を溜めやすい状態になります。これにより血圧低下とは異なる仕組みでめまいが起こり、雨降り前などの気圧低下の際に頭痛が強くなる傾向があります。
強い不快症状が続くために体がストレスを感じ取って水を溜めやすい状態に至っているのかもしれません。
小学生高学年から中学生にかけて多く、女子は男子に比べて早く起こっている印象があります。この時期は身体的に急激に成長する時期です。
おそらく、体の成長に栄養補給が追いつかず、体の原料不足に陥っています。鉄欠乏性貧血にもなりやすい時期で、貧血に至っていなくても鉄が欠乏していることがあります。
実は、起立性調節障害の症状と鉄欠乏性貧血の症状は似ています。鉄は血液中の酸素を運ぶ重要な成分です。血液中の酸素を運ぶヘモグロビンというタンパク質の構成要素であり、鉄はトランスフェリンというタンパク質によって脳の血液中から細胞へ運ばれます。
鉄は脳にも重要な役割を果たしていることが示唆されます。自律神経の失調で脳に血液が到達しづらい上に、鉄欠乏が合併していれば酸素の受け渡しもスムーズに行われません。
起立性調節障害を起こしている状態では、適切な栄養摂取が必要でしょう。
現代医学的には低血圧に対して血圧を上げるような治療を行いますが、なかなか難治です。漢方では、脳の血流が低下している状態の改善、水の分布異常の改善を試みます。
起立性調節障害は症状だけみると、「怠け者」のように見えてしまいます。しかしながら、これは苦痛を伴う症状であり本人は決して怠けていないという認識が必要です。周囲、とくに家族の無理解は本人を突き放してしまい、治療のモチベーションを下げてしまいます。
ご高齢な方の中には、昔はこのような病気はなかったと言われる方がおられますが、その理由はいくつかあるでしょう。昔はこのような病気が認知されていなかったために、その存在を社会が無視していたのではないでしょうか。人知れず苦しんだ若者が少なからずいたものと察します。
そして、現代の若者は昔の人と比べると体格が大きいため、成長期の栄養の需要はかなり増えているでしょう。昔の人よりも体を構成する原料が不足している可能性があります。最後にスマートフォンやタブレットの存在です。一方的に入ってくる視覚や聴覚の刺激が多く、脳が休まる暇がありません。
起立性調節障害で夜の元気な時間に脳が刺激を受けることで、本来であれば副交感神経が優位になりリラックスすべき時間に交感神経が優位になり興奮してしまうことになります。スマートフォンやタブレットは現代人とくに小中学生の自律神経が失調する原因になっているはずです。
本人とよく話し合い、これらのデバイスの使用を時間制限することで快方に向かうことがあります。逆に言うと、これらを夜中まで使用していては、どのような薬を用いても良くならないと考えた方が良いです。
成長に関連して起こっている症状なので、成人すると良くなっていることがほとんどです。しかしながら、人生にとって精神的にも成長する時期を思いっきり生活できるよう、治療と療養を行いたいものです。
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